珈琲の香り。
日本一、
いや、
世界一短いお祭りかもしれないお祭りが
ここ、宇検村にはある。
年に1回開催される
「うけん市場まつり」がそれである。
開始時間は朝10時。
今回は
「とよひかり珈琲試飲DAY」という形で、
珈琲に関するアンケート調査を兼ねて
とよひかり珈琲店として
試飲ブースを設ける事になり、
設営のため冷たい雨が降る中、
朝9時に会場入りした。
これまでに教室やイベント、
会議の中で珈琲の提供はしたことはあるけれど、
本当の一般消費者の方々がお買い物をする横で
お出しする事は初めての試みで、
一体どのように受け入れてもらえるのかの
不安とワクワク、
そして冷たい雨が降り注ぐ会場の空気で、
店主の手先足先は完全に冷えきっていた。
しかしそんな店主の緊張とは関係なく、
開始30分前には、
開始されるのを今か今かと
楽しみに待つお客さんが
ポツポツと現れはじめ、
準備中のブースを覗きながら
品定めを始めていた。
そして10時。
まずは開催の挨拶や
ブース紹介などのセレモニーが始まった。
うけん市場まつりでは、
宇検村と交流のある宮城県七ケ宿町からも
物産品のふるまいや販売があり、
開始時間には、
それを目当てにする人が
会場中に溢れんばかりだった。
5分ほどで挨拶も終わり、
待ちに待ったブースの開店である。
宮城県七ケ宿町のブースでは、
りんごやキウイなどの果物やお米など、
奄美大島にはない魅力的な物産がたくさん並び、
また米粉麺の焼きそばが
無料で振る舞われていた。
また、宇検村で行われている
車海老の養殖業者の方も出店し、
こちらも同じく焼き車海老を無料でふるまい、
美味しい匂いが会場を包んでいた。
もちろんそれだけではなく、
うけん市場まつりというからには
普段から「うけん市場」に
商品を下ろしている農家さんや
加工品グループの方の品々も数多く並び、
出来立て採れたての新鮮なものが
数多く並んでいた。
その傍らに、
とよひかり珈琲店もひっそりとブースを出し、
買い物や試食がひと段落したお客さんが、
少しばかり漂うコーヒーの香りに釣られて
「ここは何のお店?」と立ち寄り始め、
「アンケートご協力の方に淹れたてのコーヒーを
一杯無料でお配りしておりまーす。」
と伝えると、
いつの間にか行列が出来ていた。
30杯という決して多くはない数だったけれど、
一杯一杯を丁寧に抽出していくと、
結果的にお待ちいただく時間が
長くなってしまう。
インスタントコーヒー、缶コーヒー、
コンビニの100円コーヒーと、
世の中には色々なタイプのコーヒーがあり、
それらには安価にお手軽に飲める
というメリットもある。
その一方で店主が、
自らの手でコーヒーの生豆を
焙煎するようになって気づいたことは、
一粒のコーヒーの実から
一杯のコーヒーが抽出されるまでにかかる
時間や手間暇は、
想像以上のものだということ。
たかがコーヒー。
されどコーヒー。
何事にも選択肢は存在し、
前者のコーヒーというのも、
ひとつの選択肢であり、
後者のようなコーヒーもまた、
ひとつの選択肢となり得る
そういう機会があってもいいじゃないのか、
と自分なりに「珈琲」をツールとして
選んだ頃から思っていた。
実際には、
面白いことに現実と理想は
ピッタリとは中々はまらない事の方が多く、
「むむむ」と、
妥協点を探る近頃である。
煎りたてであり、
挽きたてであり、
一杯を丁寧に抽出した
淹れたてのコーヒー。
それを一杯のカップに注ぐまでの
少しの会話。
お店に足を踏み入れてから、
お店を後にするまでの珈琲時間。
催事においては、
中々に再現の難しい
「店主のこだわり」の部分だけれど、
この理想と現実のギャップを
どこまで滑らかにできるのかが、
今の自分に与えられた、
越えるべき試練なのかもしれない。
と、うけん市場まつりの開始から
約1時間が経過し
すっかりと客足も引いた頃、
最後のお客さんを見送りながら、
ふと思った。
そして今週末は、
村の健康フェスタの
カフェブースにて出店です。
うけん市場まつりの時より、
はるかに数が多い。
店主にとって前代未聞のチャレンジなので、
これもまた、越えるべき試練。
淹れたてを飲んでいただける事に
感謝の気持ちを忘れずに、
ほっとできる時間を届けたい。
from bean to cup.