10月のとよひかりの日。
少し遅れてしまった
10月のとよひかりの日。
一週間近く続いた秋雨もようやく落ち着き
日差しが出ると、やはり南の島。
まだ屋外では、
汗ばむ陽気のシマの秋。
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ふと、気を抜いてしまうと
あっという間に
一日一日が飛ぶように過ぎていくのは、
三十路手前という年齢になった
からなのかもしれない。
ついこの前だったように思う
そうめん流しをしたのも、
2ヶ月以上前の話だったりするからなおさら。
キックオフパーティーで
庭の草むらを一掃し、
すっきりとしたはずの庭が再び
のびのびと草花に覆われ始めた
10月15日土曜日、
ようやく、次のステップ
「お店づくり」に着手した。
ゆっくり、
ゆっくりと
着実な一歩を進む時もあれば、
少しばかり、駆け足のように
次へ次へと欲張るように進む事も
時として必要な時もある。
そして、
それが
「今」
なのかもしれないと、
その動き出した歯車を
傍観者の如く眺める店主の心は、
読み始めた物語に抱く
好奇心に似たわくわく感と、
目には見えない数々の決心とで、
膨らんでは、
しぼんでを繰り返していた。
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【とよひかり繕い塾】
それが、
このお店づくりプロジェクトの愛称である。
針と糸を使って、
外れたボタンや
破れた衣服を
一針一針縫うように、
お店となる空き家も
一針一針繕うように、
お店を丁寧に手作りしたい。
という想いを込めた。
そんな第一弾とよひかり繕い塾は、
全5回構成で
「コーヒースタンドを繕う」
をテーマに始まった。
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秋雨のような長雨が続いた一週間が
嘘のように
第1回目の繕い塾は
快晴に包まれた中で幕を開け、
まずの課題は
「床と壁のはがし方」。
40年以上前に建てられたこの空き家に
いよいよ、大掛かりな手が入り、
年季を重ね、シロアリに喰われた床板を
工具を使いながら、
手作業ではがしていく。
湿気の多い奄美大島。
シロアリは
その湿気が好きなのか、
奄美大島では、
どの家もシロアリに頭を抱えていて
この空き家も、現在進行形で
あちこちをシロアリに喰われている。
床、柱、天井だけでなく、
ダンボールや畳にまで喰らい付く
シロアリの食いしん坊ぶりを見て、
この特技は他に活用できないものかと、
考えてみたり。
私たち人間は
この体長1センチにも満たない
この小さないきものに
そうやって
やきもきさせられている。
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そんな、とよひかり繕い塾の講師は
店主が通う木工教室の先生でもある
職人気質の地元の大工さん。
長年の知識と経験と
愛用の道具を使いこなしながら、
一寸の躊躇なく床板を切断し、
剥がしていく。
そして
参加してくれた10名ほどの塾生達も、
講師の動きを見ながら、
見よう見真似で学び、
実践していく。
最初こそ
危なっかしい手つきであったのが
ほんの数時間で、
気が付いたら
釘抜きや床剥がしが上達し、
術を身につけ始めていた。
『百聞は一見に如かず』
『案ずるより産むが易し』
とはよく言ったものである。
朝10時から作業が始まり、
途中に美味しいお昼ご飯と、
とよひかり珈琲タイムをはさみ、
終了予定時刻の午後3時には、
お台所と和室1間と廊下の床板、
押入れひとつ、
そして
大々的にシロアリに喰われた壁が
すっかりなくなっていた。
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40数年前に建てられたこの家には、
店主が想像できないほど、
いろんな方が足を運び、
楽しく賑わった宴の時間や、
家族が日常を過ごした
日々の思い出が詰まっている。
その思い出が詰まっている場所に
外から来た私がメスを入れるのは
正直とても、
心苦しい。
だからこそ、
1日も早く、
この場所を繕い、
再び命を吹き込み、
そして
珈琲の香りが漂い、
人の声で溢れる場所に戻してあげたい。
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そんな
10月のとよひかりの日である。